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アフォーダンス-新しい認知の理論
佐々木正人著、岩波書店、1994年

「アフォーダンス」とは、情報は人間をとりまく環境そのものの中に実在している、という認知理論である。それ以前の認知理論では、人間は環境から刺激を受け、それを脳の中で処理して意味のある情報を得ていると考えられていた。ところが、1960年代頃、アメリカの心理学者ギブソンはこの考え方とはまったく違う「生態学的認識学」と呼ばれる理論を唱える。この革新的な理論は、現代の認知科学や人口知能論に決定的な影響を与えた。この本ではとくに「人工知能(AI)の設計原理」や「ひとと機械のコミュニケーション」について興味のある人間には、非常に重要なキーワードである、「アフォーダンス」を軸にギブソンの思 想をやさしく紹介している。

プロローグ なぜいまアフォーダンスなのか?
アフォーダンス理論は、ジェームス・ギブソンというアメリカの近く心理学者によって1960年代に完成された。「アフォーダンス理論」によれば、私達は「眼で見ているのではない」し、「耳で聞いているのでもない」ことになる。そうはいっても、この理論には人々を幻惑する神秘的な部分はひとつもない。むしろ、現在のところ、もっとも「科学的」で「真実に近い」近くについての説明であると考えられているのだ。

1 ギブソンの歩み
ギブソンはすでに半世紀以上前から、伝統的な知覚と認識のモデルに決定的な欠陥があることにきづいていた。そして、ほぼ半世紀をかけてまったく、別の説明を模索していた。スミス・カレッジでの長い研究生活の中でのエポックとなる体験のひとつは、第二次世界大戦中の空軍の知覚研究プロジェクトの一員に参加したことであろう。この体験のなかで、パイロットたちの持つ「あたりまえの見え」が実現している事に感銘を受け「奥行き知覚の刺激」、面の上のキメの知覚の重要性に気付く。これがアフォーダンス理論のおおもとになる。

2 情報は光の中にある
1950年代に入り、ギブソンは研究テーマのひとつに「光」をとりあげた。ギブソン理論の最大の特徴のひとつは「生態光学」と名づけられた新しい光についての考え方である。視覚にとって、光が決定的に重要である事は間違い無い。情報は光の中にあるのだ。散乱する光で証明されているっ空中のあらゆるところでは、あらゆる方向から来る光が交差している。この環境を包囲する光をギブソンは「包囲光」と呼んだ。

3 エコロジカル・リアリズム
初期の認知科学の中心理論は、人間は環境から刺激を入力し、それを中枢で加工する事で意味のあるものとすると考えていた。しかし「生態学的認識論」では、情報は人間の中でなく、人間の周囲にあると考える。近くは情報を直接手に入れる活動であり、脳の中で情報を間接的に作り出す事ではない。私達が認識のためにしているのは、自身を包囲している環境を「探索」することなのであるアフォーダンスは事物の物理的性質ではなく、「動物にとっての環境の性質」である。環境にあるすべてのものはアフォーダンスをもつ。動物ならばそこにアフォーダンスを探索する事ができるのだ。

4 知覚するシステム
自分に適する環境の性質、アフォーダンスをピックアップするための体の動きを、ギブソンは「知覚システム」と呼んだ。感覚機関をもとにした古典的な分類である「五感」では、多様な知覚体験を説明できない。眼を要素とする諸機関のシステムには多様な働きのレベルが存在する。「眼-頭-全身の姿勢」というようなマクロな意味での「視るシステム」など、五つのシステムをもとに人間は知覚している。知覚システムは環境の中に情報を探索する。知覚システムは、それ自体がまるで「意図」を持つかのように、環境の多様性に応じて複雑に動きを組織しているのだ。

5 共鳴・同調の原理
ところで、知覚システムの「意図的な振る舞いを制御する原理はどのようなものなのか?-「知覚」と「行為」の協応を、「知覚と行為のカップリング」とよぶ。これは、古典的物理学の「力によるインタラクション」ではなく、質量を介さない「情報レベルのインタラクション」が動物の行為を「制御」しているのだ。ギブソニアンと呼ばれる彼の後継者たちは、ギブソンが「生態光学」という呼び名で構想していた「心理学と生物学と物理学の垣根を取り払って成立するまったく新しい科学」である「生態科学」が、「複雑系の物理学」をとりこむことで展望できるとしている。

エピローグ リアリティーのデザイン
アフォーダンス理論のセンスは、「新しい人工知能」であるMITのロッドにー・ブルックスによる「アーティフィシャル・クリーチャー」の持つ先鋭的なAIなど、すでに認知科学の多くの領域に発見する事が出来る。また、アフォーダンス理論をシステムや道具、建築などの人工物のデザインに応用する試みはすでに広く開始されている。アフォーダンス理論は一般的な意味の理論として、すべての認識の現象を解明するヒントを提供しているのだ。

 

(文責:福田 一史)




 
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